土窯プロジェクトの趣旨
この土窯を研究するプロジェクトは、師匠である備前焼作家平川忠氏が1989年より備前焼中世古窯(約700年前の窯)の忠実な復元と焼成を目的として着手し、2002年に1号土窯、2010年には私も加わり、備前市教育委員会と共同で2号土窯を築窯・焼成し、実証実験を重ね、土窯の持つ特性は現代の窯にも劣らない優れたものであることを実証してきました。
そもそも「土窯(つちがま)」とは平川氏による造語で、備前焼中世古窯の構造の窯を指します。窯の型式としては半地下式の窖窯(あながま)ですが、現代の窯と築窯素材や窯床の形状、煙突の有無などのいくつかの大きく異なる点があります。中でも中世古窯の窯壁の構成素材は土壁で、後の、日干しレンガ(土を型枠の中で突き固めたブロック)、耐火レンガのように突き固められることなく、自然の土の柔らかさそのままに築かれています。このことが独特の熱を生み、現代のレンガ窯、ガス窯、電気窯等のどの窯よりも “土を焼く”ということに適しており、備前焼本来の焼成の源泉になっていることも実証できました。また焼成に使用する燃料は多様な樹種が用いられていたことも解明できました。この他にも多くのことが解明できてきました。
そして、この土窯研究活動の中で実感したとは築窯から焼成までの全ての工程が自然素材によってまかなわれる理想的な自然循環型の窯で、現代の地球環境に適応しているということです。
①山の一部(大地)へ溝を掘り、掘った土で天井を構築し窯となります。
②その付近から採集した陶土を用いて制作します。
③大地が育てた樹々(カーボンニュートラルの木質系燃料)で焼成します。
(現在では森林保護の観点から、間伐材や風倒木などを使用し、世界的な地球環境への取り組みもテーマとして内包しています。)
④焼成後の灰は大地の栄養になります。
また土窯は美術的観点からみても、地球が美を生み出すように、その中心的要素である「土」が「美」を生み出す最高の装置であり素材であると、確信するようになりました。「プリミティブな手法で芸術の広野を切り拓くこと」この古くて新しい命題に取り組む「土で土を焼く」というコンセプトはエ芸の視野を超えて、「普遍的な美の追求」というアートの原点領域に入ってゆきます。そして中世の備前焼陶工(先人)が残してくれた窯跡(土窯)の様々さ痕跡から教えられたことは「土窯」は過去のものではなく、はかり知れない可能性を秘めた未来へつながる窯になるということです。
土窯プロジェクト in アメリカ
このプロジェクトは備前焼陶芸家平川忠の土窯(備前市)から復元した過去の情報、技術などのノウハウを土台に新たな焼締め陶の創出活動を知った、クリス・パウエル教授(テキサス・クリスチャン大学)から米国に土窯を築いて欲しいとの依頼を受けたことから始まりました。
2015年、平川を中心とした備前メンバーの指導によってアーカンソー州デクイーンに築窯した土窯を築窯。そこから焼き出された作品を広く発表するとともに、若手の芸術家、陶芸家・研究者等の参加を募り、共に取り組み異分野交流を深めることも目的とし行いました。
前回のプロジェクト(3年前)以降、平川忠は文化庁助成事業「中世の備前 焼を再現する」日本の中世時代の備前焼の成形技法(壺、甕、すり鉢など)と当時の窯詰め、焼成までの再現を行いました。これにより、さらに、いにしえの備前焼への理解を深めることができしました。
2度目となる2018年の活動においてもアーカンソー州に築窯した土窯を使い、その後の研究によりさらに忠実に解明できた備前焼伝統技法の紹介をし、それらを活用した現代作品を制作→土窯で 焼成→作品の発表を行いました。また、インターン学生の他、シンガポールから土窯で学びたいという陶芸家も参加しました。
これらは、後継者の育成及び土窯に関連した技術や情報を継承し、これを基にした将来への発展を図るものでもあります。また備前焼中世古窯の性能の高さや技術、歴史などの伝統文化の紹介も併せて行っています。この備前の地を遠く離れ、海を渡り、アーカンソーの土と向き合う地球規模の実験を通し、世界各国へ情報発信し、土窯の認知を広め、土窯の持つ可能性を導き出すためのプロジェクトでもあります。
土窯プロジェクトとして達成したい目標
「土窯」という古い時代の構造を持った窯はただの昔の窯ではなく、現代人が忘れ去ってしまっていた大切なこと教えてくれる窯です。そして、窯自体がランド・アートであり性能面でも非常に優れ、「土を土で焼く」ことにより素材の可能性を限りなく引き出してくれます。そして、現代の地球環境にも適応した自然循環型の窯といえます。
このような素晴らしい窯を過去のもので終わらせるのはもったいないと感じ、そのために私たちのプロジェクトを通して国内外へ、一人でも多くの方に情報発信していきたいと考えています。そして、これらの取り組みは備前焼をはじめ、全国・各国の陶芸・美術業界の未来への可能性を広げていくことの一助になると確信しています。